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反復。

22日に東京オペラシティ・リサイタルホールで開催された『永井由比フルートリサイタル』
とっても素晴らしい公演でした。
現代曲ばかりのプログラムでしたが、会場はほぼ満席。
演出が行き届いていたこともあって、特に身構えることなく音楽を堪能出来る環境が整っていました。

本公演で初演された拙作《Waterscape》ですが、
永井由比さんと山田岳さんのおかげで素敵な初演となりました。
「題名が水や海に因んだ、風景が浮かんで来るような、メロディックでロマンティックな作品」
というお題を委嘱時に頂きましたが、終演後に頂いた感想の中には、美しい云々だけでなく、
「その時々の興味を自分なりの方法で提示するのが面白い」と仰る方がいらしたのが嬉しかったです。

3月に初演して頂いた《Watercolor》の続編として作った本作。
引用という問題に真正面から取り組んだ前作に負けない作品を、
水をテーマとするラヴェルのピアノ曲を引用した三部作の間奏曲となる作品を、
といった感じで、意気込みながら、苦しみながら、筆を進めました。

前作をリミックスとすれば、本作はマッシュアップのようなもの。
《夜のガスパール》から〈オンディーヌ〉を八音音階(C, Cis, D, Es, E, G, A, B)に置換したものが、
まるでサンプリングしたものをループさせているかのように、延々と奏されます。
ちなみに、この音階は「waterscape」に含まれる四つの音名(A, E, s = Es, C)と、
その全音下の四つの音名(G, D, Cis, B)を組み合わせたものです。

ただ、〈オンディーヌ〉を置換したものはギターにしか現れません。
フルートは基本的に、冒頭のフレーズ(1~16小節目)を次々と移高・編集したものが最後まで奏されます。
これは、歴史の中で半永久的に存在し続けるであろう「海」に対して、
短い命ながらも輪廻転生を繰り返すことで存在し続けるであろう「生物」の祈り、
という関係性を表したい意図に基づくもの。

私が八音音階を最初に採用したフルートとピアノのための《椿》や、
3人のフルート奏者のための《initiation》で掲げた、
「そこに在り続けるものとして、しかし、変容を免れないものとして八音音階を採用した」
というモットーの延長線上にも、本作は位置していると考えます。

そして、もう一つ考えていたこと。
ミロやクレーが記号めいたものを描いたり、線を引っ張ったりしたようなことを、
音楽でも同じように実践出来ないだろうか。
つまり、ハードディスクにある様々な素材をその時の気分で選んで、ポンと置く感じ。
ただ、音楽には時間の要素があるので、それはループさせることに等しいだろう。
選ばれた素材をただ眺めているだけの音楽を作れないだろうか。

絵画の構図法には、視線の誘導が重要らしい。
導入として置かれたポイントから目が絵を辿って行き、
再び最初のポイントに戻って、違う所に目が動かされて行く。
最初からキャンバスの中に見えていた筈のものが、次々と違って見えて来るそうです。
水辺の風景やその絵画を意味する「waterscape」をタイトルにしたのは、これに由来します。

《Waterscape》においては、
「water」のモールス符号に基づくリズム構造「5-3-2-1-4」の上で、
フルートの短いフレーズを作り、それを数小節おきに配置する。
つまり、5拍子で始まったフレーズが、次は3拍子や2拍子の小節で始まるようにしてから、
盆栽に鋏を入れる要領で、小節内で無理が生じないように音を少しずつ抜いていきました。
二度目のフレーズは、最初のフレーズよりも八音音階上で一つ高くしてあります。
そこに、先述のリズム構造に当てはめておいた〈オンディーヌ〉を後付けしましたので、
フレーズの切れ目はフルートとギターで異なっていますし、
二つのパートは大きく展開することも無く、微細な変化しか認めないように作りました。

フルートのフレーズですが、上述のように擬似的なループをさせる場合、
特に印象的ではないようなフレーズを用意した方が、飽きずに聴けるのかも知れません。
でも、私は記憶にアプローチしたかったので、出来るだけ耳に残るものにしたいと考えました。
(どんな手を使っても、結局は過去の記憶との参照でしか聴いて頂けないようですが)
近代フランスや武満徹さんのような「らしい」ものになったのも、これが理由です。
イメージしたのは、ロールプレイングゲームで初めてフィールドマップに出て、
初めて流れる美しいBGMに、操作することを忘れて何ループも聴き惚れてしまった経験。
1分半程度の周期で次々と似たフレーズが登場するのは、これに由来します。

ちなみに、このような考えにはモデルがあります。
渋谷慶一郎さんがケージを語ったインタビュー記事や、村上隆さんの著書も参考にしましたが、
一番は、坂本龍一さんの《undercooled》でしょう。
ポップスのAメロ、Bメロ、サビといった構成とは異なり、
ラップがストラクチャーを作っているものの、Aの要素を殆ど繰り返すだけの、
ヒップホップにあるような音の抜き差しで作られた楽曲です。
上の方でマッシュアップと呼んだことは、ヒップホップと無関係ではありませんし、
《undercooled》を特徴付けている細野晴臣さんの共通分母のようなベース・フレーズは、
《Waterscape》のギター・パートにそのまま影響を与えています。
これが収録されたアルバム『CHASM』について語られたキーボード・マガジンのインタビュー記事が、
私の座右にいつもあることは、これまでに何度もブログで触れて来ました。

もう一つ挙げるとすれば、GROUND-ZEROのアルバム『plays Standards』でしょうか。
スタンダード・ナンバーだからこそ体験出来る時間の感覚を参考にしました。

正直に申すと、今回の試みや出来上がった作品に私は自信がありました。
なので、日頃お世話になっている方々に「是非とも聴いて頂きたい」とメールをして、
現代音楽やクラシックの注目の公演が重なっているにも関わらず、
何人もの方が実際にご来場下さいました。
勿論、永井さんを始めとする出演者の方々への興味があるからこそ、本公演を選んで下さったのでしょう。
個人的には、鹿児島でのピアノ10台作品の初演を体験された方が、
二人もご来場下さったことに感激しました。

終演後、その方々からは不出来な作品だと苦言を呈されましたが、私はそれを嬉しく思いました。
中には、現代音楽や前時代的な前衛の態度に気触れているような意見も有りましたが、
プログラムノートで一切触れていない構造や時間の扱いこそが不味かったと、
本作で私が試したかったことへダイレクトに言及して下さったからです。
悔しい気持ちは当然あって、自信作だったからこそ、ダメージは小さくありませんでしたが、
率直な意見を下さる仲間の存在は掛け替えの無いものですし、今は感謝の気持ちが勝っております。
この程度のことであれば、一晩寝るだけでポジティブになれる単純な性格で良かったかも。
自分の問題として時間を考えたのは本作が初めてに等しいですが、今後も積極的に取り組んで参ります。

嬉しいことと云えば、もう一つ。
今回のプログラムは、ラストに演奏されたジョージ・クラム《鯨の声》に向かって、
海や水、動物をテーマとした作品が配されていました。
コンセプトアルバムのように、一つのテーマに対して新作を作るのではなく、
既存の作品を並べ、足りない部分は新作を足すことで一つのテーマを浮かび上がらせる。
このことは、いつか実現させたいと私が小学6年生の時から考えている公演のアプローチに似ていて、
永井さんが思い描いた世界の一部になれたことを仕合せに感じました。

それにしても、大変贅沢な公演でした。
ご出演の永井さん、山田さん、鷹羽弘晃さん、佐藤翔さん、関係者の皆様、
そして、ご来場の皆様、誠に有難うございました。

曲が演奏される度、自分に対して「死ねばいいのに」と思ってしまうのですが、
きっとこれからも自死することなく作曲し続けるだろうと思います(*^▽^)/★*☆♪

Waterscape1 Waterscape2 Waterscape3
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